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Lee-Byung-hun addicted

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第17話

『I'll dream of you again』 scene17



「じゃ、揺は妊娠検査ね。で・・・いつからないの?」すっかりやる気を失った晋作は気だるそうに質問した。
「えっと・・・三ヶ月前かな。」
横でビョンホンが嬉しそうに指を折って数えている・・・
「えっ、じゃあ揺あの時かな・・・いや、あの時かなぁ・・・いや、逗子の海・・・」
「ちょっとやめてよ・・・恥ずかしい。」
揺はそういうと隣にいたビョンホンの口をふさいだ。そして晋作に照れ笑いを浮かべる。
「で・・・つわりの症状はあるの?」
「あるような・・・ないような・・・でも最近前より何だか胃がむかむかするような気がするかな。」
「うんうん。」ビョンホンが隣で嬉しそうに頷く。
「うるせーよ。お前は。」晋作はそういうとビョンホンの頭をペンでぶつマネをした。
「まあ、検査結果次第だけど・・・エックス線はやめたほうが無難だろ。・・胃は念のため胃カメラで、簡単に見てみるか。」
「うん。任せるよ。晋さんに」
「何だかやる気なくなっちゃったなぁ・・・・じゃ、あっちの検査室で。今ナースが迎えに来るから」
晋作はそういうと診察室を後にした。

「揺・・・なんで黙ってたんだよ。」ビョンホンは二人きりになると嬉しそうに
揺を力いっぱい抱きしめた。
「黙ってたって・・・・私もさっき聞かれるまで考えてもみなかったの・・・聞かれてそういえば・・・って。」揺は嬉しそうに微笑んだ。
「俺も父親になるのか・・・名前何にする?ねえ、男かな女かな。あ・・何だか男の気がする。絶対に男だ・・・。」
嬉しそうに診察室を歩き回る彼を見ながら揺は「まだ気が早いわよ。検査もしていないのに・・・」そういってケラケラと笑った。

やる気のない晋作の下検査は順調に進められた。
咳に不安があり肺の検査を強く勧められたビョンホンとエックス線検査をしないことになった揺は途中から別メニューとなり別々の検査室に向かった。
一足先にすべての検査を終え診察室に帰ってきたのはビョンホンだった。
「あれ、揺まだやってるんだ・・・大丈夫かな・・・」
30分くらい待った頃、ナースが診察室に入ってきた。
「ちょっとお時間がかかりそうですので先にお食事を食べてもらうようにと若先生からのご指示でして・・・これからお部屋にご案内させていただきます。」
「何かあったんですか?揺、大丈夫ですよね。ただの検査だし・・」
「詳しくはわかりませんが・・検査に時間がかかっているようです。」
「そうですか・・・」
ごねても仕方がないと思ったビョンホンは素直に案内された部屋に向かった。
約束どおりホテルのような最上階の特別室だった。
「食事は彼女が戻ってきてからで結構です。ここで待っていますので。」
一体何があったのだろう・・・・ほんの数時間前の喜びが遠い昔の話のように思える。
ビョンホンは豪華な病室で一人見えない不安に襲われていた。


コンコン。静かな部屋にノックの音が響く。
「揺?」ビョンホンが勇んでドアに駆け寄ると入ってきたのは晋作だった。
「ちょっと・・晋作さん。悪戯が過ぎるってもんでしょう。いくら俺たちの仲を邪魔したいからって揺だけ別な部屋に連れてくなんて・・・・・」
興奮してまくし立てるビョンホンに向かって晋作はいつになく冷静に話しかけた。
「ちょっと屋上に行かないか・・・」
ビョンホンは彼の表情からこの先に聞かされる話がとてつもなく重いものだと直感した。
「晋作さん・・・揺に一体何があったんですか。」
もうすっかり夕日に染まった人気のない屋上に二人は立っていた。
「俺は・・・・今日ほどお前に感謝した日はない・・・それから今日ほどお前が俺でなくて良かったと思った日もない・・・お前で良かったと思った日も・・・」
「晋作さん、何言ってるんだか全然わかりませんよ。ちゃんとわかるように説明してください。一体揺になにがあったんですか。」
ビョンホンは実は彼を問い詰めることが怖くて仕方がなかった。何か悪い知らせに違いなかったから・・・でも知らないわけにはいかなかった・・・。彼は勇気を出して晋作に問いかけた。
「聞くからには覚悟が出来てるよな。お前が運命から逃げるような男じゃないってわかってるから、俺は揺本人よりもお前に先に話すことにしたんだ・・・だから心して聞け。」
晋作はビョンホンの目をしっかり見つめるとそういった。
黙って頷くビョンホン。
「揺は・・・・・おそらくガンだ。今組織を精密検査中だが。スキルス胃がんといって早期発見が非常に難しいガンだ。通常、症状が出た頃にはもう転移が激しくて手遅れになっているケースがほとんどの非常に怖いガンなんだ。・・・今日だって普通の人間ドッグメニュー通りエックス線検査だけだったらもしかしたら見落としていたかもしれない。
揺は信じられないほど幸運だった。胃カメラだったし、たまたまその道の権威の俺のおじきが外出先から早く帰って来て検査室を偶然覗かなかったら・・・・俺だったら見落としていたかもしれない。それぐらい極めて早期の発見だ。部分切除でおそらく問題なく治療できる範囲だ。その後は定期的に検査を徹底すればおそらく再発も防げるだろう。・・・」
「で・・・揺は今。」ビョンホンは心配そうに訊ねた。
「胃カメラで結構胃を刺激したから・・つわりの症状もあったから辛いらしくて今処置室で栄養剤や水分補給の点滴を入れている。」
「・・・・・・」
「それでだ。」晋作は話しづらそうに切り出した。
「こども・・・ですか。」ビョンホンはつぶやいた。
「・・」黙って頷く晋作。
「胃の全体や他の部位に転移がないかどうか検査するにはX線検査は重要だし、この先化学療法が必要になる可能性もある。・・・スキルス胃がんはそれじゃなくても妊娠中に発病すると進行が通常より早まる可能性が指摘されている厄介なガンなんだ・・・結論から言うと揺の命を救いたいならば諦めるしかない。」
「そうですか・・・」
「揺に妊娠している事実を言わないことも俺は・・・・・・考えたがそれはやはり人道上医療上許されないことだから・・・彼女に妊娠している上で病気であり諦めなければいけないことを告げなければならない。あいつのショックはおそらく計り知れないだろう。お前・・・支え切れるか」
「揺は辛いでしょうね。・・俺よりずっと。もちろん何があっても支える自信はありますが・・」
「お前なら大丈夫だ。俺は今本当にお前に感謝してるんだ。お前が変な咳をしなかったら・・・お前が人間ドッグを一人で受けたくないってごねなかったら・・・お前が揺とやらなかったら・・お前の精子が揺の卵子を捕まえなかったら・・・たぶん揺はあと一年もたなかった。」
晋作はそういうと目をこすった。
「俺がお前だったら・・・辛くて死んじまう。本当に俺はお前じゃなくて良かったと思ってるんだ・・・。あそこで譲って大正解だった。本当に・・・・。今のあいつを支えるのは相当しんどいだろうけど。・・・・お前みたいに図太くてタフで幸運な男だったらきっと支えられる・・・・・。」晋作はビョンホンの肩を力強く叩いた。
「晋作さん・・・・」そういうビョンホンの目には揺を支えるという強い決意が現れていた。



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